第8章 カタウデの少女
「何か?」
「貴女…何者?ただの死神じゃないわよね?それにその隊首羽織を着てるって事は…」
「あぁ、ちゃんと自己紹介せずに申し訳ありません」
全身で振り返れば、ふわりと羽織が舞う。
「零番隊で隊長を務めています」
胸に手を添え、ニコリと笑んだ。
「またいつか、お会いしましょう」
まるでどこかの執事のような振る舞いで、軽く会釈した梨央は仲間と共に家を出て行った。
「零番隊…?」
未だ驚いた表情で戸を見つめる。
「(卯ノ花隊長から少しだけ聞いたことがある…)」
十三隊の他に“零番隊”という組織が存在する事を。
護廷では処理し切れない虚の討伐や危険な任務を専門としているらしい
その隊には席官が六席までしかおらず
全員が総隊長以上の力を有している
「(そして…)」
その隊をまとめているのは
死神最強と比喩される人物だと云う…。
「それが…あの子なの?」
天才よりも天才と謳われた少女は
霊術院をたった三ヶ月で卒業し
死神認定試験にも一発合格
そして…最強戦闘部隊を結成させた
「(誰かが噂してたわね…)」
零番隊の隊長を務める人物は
異質な存在で『化け物』なのだと───。
「あんな子供が…」
何故か詩愛は背筋をぞくりとさせた。
「(彼女は…“異質な存在”だわ。)」
そして一番……───
「…狂ってる」
ボソリと小さく呟いた。
「詩愛、どうしたんじゃ?」
「何でもないわ…」
ギュッと失った片腕に触れる。
「痛むかの…?」
「…古傷が疼いただけよ」
「……………」
「そんな顔しないで」
「すまんの…儂が治してやれたら…」
「そんなの…どんなに腕の良い医者でも無理よ。この腕が虚に食い千切られるなんてあたしも予想してなかったんだもの」
「!」
「さ。村長、このお菓子を子供達に」
「…分かった。また来るよ」
「えぇ」
村長が出て行くと、笑んでいた表情を崩した詩愛は窓から見える空を見上げた。
「…初めて会ったのに…何故かしら。…あの子のこと、怖いと思ってしまった───」
next…