第1章 春。
ふと腰回りに温もりを感じて上空から目線を下ろすと、原因は隣に座る一さん。
彼の腕が私の腰を抱いている。
「朝方はまだ冷える。こうしていれば少しは温かいだろう」
二人で生活してからしばらく経つとはいえ、こうして詰まった距離が少し恥ずかしい。
けれど、近付いた距離を嬉しく思う気持ちも本当で、これくらいなら大胆になってもいいかと彼の肩に頭を預けた。
肩越しに見上げた一さんの頬がほんのりと色付いているのが、暗さに目が慣れたおかげではっきりと分かる。
前々からそうだが、一さんは少し照れ屋だ。
一さんの為にあえて少し、と言っておこう。
「あ、一さん。見えてきましたよ」
彼の横顔が照らし出されて、時間だと空へ視線を戻した。