第41章 『嫌い、すき。』孤爪研磨 R18
久しぶりに会った研磨は、昔よりも長くなった髪の毛をおしゃれに結え、自分のために仕立てただろうスーツを身に纏い、おしゃれにシャンパングラスなんてもったまま私に近づいてくる。
10年。
会わなくなってからの10年は付き合っていた高校生の時の思い出をきらきらと美化させた。
「ひさ、しぶり。」
「夏乃、変わんないね。」
「研磨は…変わったね。」
そう、素直な感想を伝えれば、研磨は困ったように眉を下げる。
「そんなことないよ。中身は昔のまま。」
知ってるよ。
あなたがユーチューバーとしてすごい数の登録者がいることも。
株式会社を運営していることも。
やる気のないフリしながら、どんどん届かない場所に行っていることも。
「夏乃が変わらなくて落ち着く。」
10年も経ち私も変わった。それなのに変わらないって?
そう聞こうとしたけれど、いつのまにか正面から隣に移動した研磨は私の肩に頭をもたれさせる。
暗いパーティ会場。
もたれた壁と体の間、空いた手が私の指と絡む。
久しぶりの胸の高鳴り。
駄目だとわかっていても絡んだ指を突き放すことができない。
「夏乃って独身?」
「ん…そうだけど…」
もたれかけられた頭がすり、と動くと、寄せられた唇がピアスを揺らす。
「じゃあ……彼氏は。」
「い、ない。」
ちゅ。
揺れたピアスにともる熱。
そのまま耳に吹き込まれる熱を断っていれば
きっと苦しまずに済んだんだろうな。
なんて、後悔したのはずっと先のこと。
「じゃあ、この後誘ってもいい?」
研磨の低くて甘い声は、私の首を縦に振らせるのに十分な効果だった。