第35章 『残業終わりの甘い誘惑 前編』 黒尾鉄朗
「黒尾課長、どうぞ。」
ことん、と机に置いた赤色のマグカップ。
少し冷ましたコーヒー。
砂糖が2杯入っているソレを課長のデスクに置けば、パソコンとにらめっこしていた瞳が私に動く。
「ああ、ありがとう。」
受け取ったままソレを口に運んだのを見て、少しだけ口元が緩んだ。
猫舌の課長に合わせたコーヒーを出せるようになった喜びを必死に隠しながら私は席を後にした。
私の憧れ、黒尾課長。
34歳、独身。
そのとっつきやすさから男女問わず人気がある。
若手ながら敏腕でいくつものプロジェクトを抱えている彼は、うちの会社では異例の30歳で役職持ちになったらしい。
自分のデスクからちらりと横目で盗み見る課長のデスク。
画面を見つめる課長に
私は今日も
片思いをしている。