第1章 カードの手が悪くても顔に出すな
「ちょっと十四松兄さん!?病人に何してるの!?」
ソファーの後ろからもう1人の声と足音がした。
声の主と思われる足音はソファーの周りをぐるりと半周し、先ほど私を放り投げた男性の隣に立つと、ストンとしゃがみこみ、私と目線を合わせながら申し訳なさそうに微笑んだ。
「急にびっくりしたでしょ?ごめんね?」
ピンクのシャツに赤みがかった黒いベスト、頭には黒いハットを被った男性が首を傾げながらこちらの様子をうかがうように顔を覗き込んでくる。
彼の顔は先ほどの男性と同じ、と表現していいだろう。
私にはその見分けがつかないほどそっくりだった。
状況が飲み込めず、気怠さからか思考が追いつかない。
返事もせずにぼんやりと彼らを眺めていると、黄色いシャツの男性が
「じゃあ、僕、兄さん呼んできマッスル!」
と発するやいなや扉を乱暴に開け、走って行ってしまった。
「…騒がしくてごめんね?僕ちょっと水とってくるよ」
飲めそう?とたずねてくるピンクのシャツの男性の問いかけに愛想なく小さく頷くと、彼は満足そうに微笑み、私の頭をひと撫でし、立ち上がった。
私の足元の方へと歩いていく革靴を見届け、再び目を閉じる。
…全く状況がつかめない。
なんでここにいるんだろうとか、この人達は誰だっけとか、さっきまで私は何してたっけとか、なんであの人頭撫でたんだろうとか、色々疑問はあるがとにかくだるい。
もう少し寝たい。