第1章 カードの手が悪くても顔に出すな
「…水とってきたよ。起きれる?」
ハッと目を開けると、ピンクのシャツの男性がペットボトルを持って立っていた。
頷いて体を起こそうとするが上手く力が入らない。
自分のものじゃないみたいに体が重い。
男性に支えてもらい、なんとかソファーの上に座る。
背もたれに深く体重をかけ座っていると、上からパキッとペットボトルの蓋を外す音がした。
はい、と差し出されたそれを両手でしっかりと受け取り、一口二口流し込む。
喉が渇いた、とは思っていなかったが、水分が体に染み渡る感覚に小さく息をついた。
「少し落ち着いた?まだ顔色悪いね」
水を渡した彼は、いつの間にかイスを持ってきてすぐ目の前に座っていた。
『えっと…』
「あぁ、僕は松野トド松だよ。君は?」
そういえば自己紹介してなかったね、と彼は笑う。
私の頭の中で松野、という名字がひっかかった。
しかしその正体がわからず無意識に首を傾げる。
「…あ、名前聞かれたくない感じかな?」
なかなか自分の名前を言わない私に気を使ってかトド松と名乗った青年がたずねてくる。
…今のところ、彼からは敵意を感じない。
よくわからないけど助けてもらったようだし、名前ぐらい名乗っておいても良いだろう。
彼の問いに小さく首をふる。
そして精一杯、優しく、可愛く微笑む。
『…私はムーメ。お水、ありがとう』
いずれ、利用することもあるだろうし。