第3章 魚心あれば水心
「…おそ松兄さん、いくら女の子に飢えてるからって誘拐はちょっと」
「ドン引きッス」
あからさまに引いてる二人を見て、おそ松は慌てて弁解する。
「いやいや、違うから!
この子がいきなり倒れたの!」
さすがにほっとけないじゃん、と言うが半分、いやほぼ下心だろう。
「それにさー、この子あの屋敷から出てきたっぽいんだよね」
その言葉に僕と十四松はお互いを見て、それからおそ松の腕の中の女の子を見る。
ふわふわした淡く長い髪に、血の気のない白い肌、眠る顔は人形のようだ。
少女、と言ってもいいくらいの年齢に見える。
「この子がそうだって言うわけ?」
どう見てもそうは見えない、と言外に言う。
「でもさー他にいなかったんだよ?
それに俺の顔見て驚いてたっぽいし」
そう言ってソファーに近づき、少女を降ろす。
十四松は横を通り過ぎて行った二人にハッとした顔になって、ソファーに眠る少女に近づくと、鼻を鳴らし始めた。
十四松兄さん、と声をかけると不思議そうな顔をしてこちらを振り向く。
「兄さん、この子、ちょっとだけ血の匂い?するッス」
生理かなー、とおどけながらいつもの顔に戻り少女から離れる。
生理かどうか確かめる気はないが、十四松の言いたいことはわかった。
「…じゃあ本当にこの子が?」
十四松が言うなら間違いないのだが。
半信半疑ながらスヤスヤと眠る少女を見つめて呟く。
隣でおそ松がため息を吐く。
お目当の人物を発見できた安堵半分、連れてきた可愛い女の子が一般人じゃなかった悲嘆半分だろうか。
「ああ、恐らく殺し屋だな」