第3章 魚心あれば水心
「なー、トド松。今から女の子連れて帰るわ」
スマホ越しの兄の声に、呆気にとられる。
「はぁ!?このクソ忙しい時に何ナンパしてんの!
というかおそ松兄さん、人探ししてたんじゃないの?」
「スマホ越しに怒鳴るなよ。
なんかチョロ松みてー」
それは不名誉だ、と思いつつ、ここにいない兄弟の名前を出されて言葉に詰まる。
じゃ、今から帰るわ、と言い切る。
ちょっと、と言いかけるがすでに通話は切られていた。
色々言いたいことがあったが、あの長男には言っても無駄だろう。
なんだかんだであの人の選択が大きく間違ったことはない気がする。
「おそ松兄さん、お客さん連れてくるって」
呆れつつスマホを置き、パソコンから目を話す。
ソファーに座り金属バット磨く、一つ上の兄に話しかける。
「ほんとっすか!おそ松兄さんの探してた人かな!」
十四松は立ち上がり、目を輝かせる。
「うーん、女の子って言ってたけどどうなんだろう」
「へー、おそ松兄さんナンパ成功かな!」
スッゲー!と言いながらバットを構え、室内で素振りを始めた。
「部屋で素振りはやめてね十四松兄さん。
それにお客さんがくるんだから準備しないと」
「そっすね!さすがトッティ!」
トッティやめてね、と言いながら散らかったゴミを二人で片付け、バットやら何やらをロッカーに押し込み鍵を掛けた。
「…カラ松兄さん帰ってこないね」
片付け終わり、再びソファーに座ると十四松が退屈そうに尋ねる。
その隣りに座ってスマホを確認する。
あれから連絡はきてないようだ。
「まあ、すぐには終わらないんじゃないかなぁ」
さて何しようか、おそ松兄さんを待っていたほうがいいのだろうか。
そう考えていると、扉が叩かれる。
二人は身構えたが、おそ松の声ですぐに警戒を解く。
扉の向こうで、開けてー、と声を上げている。
なんで自分で開けないかな、と疑問に思いながらも扉を開ける。
そこには小柄な女の子をお姫様抱っこしたおそ松の姿があった。