第2章 信ずるは良し、信じないのはもっと良い
思ったよりも二人の距離は広がらずに、裏路地の鬼ごっこは続く。
道を選んでいるせいか、このままだと大通りに出るには時間がかかりそうだ。
カラ松が連絡を取っていたことからして、残りの兄弟ももう動き出しているだろう。
あまりのんびりしてられないな、と思いながら進路を右に曲がる。
曲がったすぐ目の前は高い塀が立っていた。
行き止まりだ。
「どうやら運命の女神は俺に微笑んだらしいな。
鬼ごっこはおしまいだガール…」
行き止まりであることを知ったカラ松が話しかけてくるが、スピードを緩めず壁に向かう。
後三歩ほどで壁、というところで向きを変え、右手の壁にジャンプする。
足を縮め、壁に右足が着いたところでキックするようにして左の壁に跳ぶ。
続けてそこから正面にあった壁に向かって跳び、ようやくその上に登ることができた。
下を見るとカラ松が呆気にとられた表情でこちらを見上げている。
少し優越感を感じながら反対側の道へ降りようとしたとき、ふっと影がかかった。
「…逆転満塁ー」
弾かれるように顔をあげると、バットを掲げ、飛び上がる人影が頭上にあった。
逆光で顔は見えない。
「サヨナラホームラン!!」
その人影はそのままの勢いで着地と同時にバッドを振り下ろす。
それを寸前でバク転で避け、バックステップで距離をとる。
果たしてバットは鈍い音を立て、地面、もとい壁を小さく陥没させた。
「すっげーね!!
ムーメちゃん忍者!?マリオ!?」
目の前の人物、十四松が楽しそうな声を上げる。
大きく口角をあげ、その目は新しいおもちゃを見つけた子供のように興奮の色を見せていた。