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【マフィア松】Focus Me【おそ松さん】

第2章 信ずるは良し、信じないのはもっと良い


「っお、お転婆がすぎるぜガール…」

下を向いているせいで表情までは見えないが、着地で足が痺れたのかもしれない。
同じ高さから降りたとはいえ、体重差がある。
私はこれ幸いと背を向け走り出した。

しかし、窓から追いかけてくるとは少し驚いた。
あのタイミングだとほとんど躊躇なく飛び降りたのだろう。
勇敢というべきか、向こう見ずというべきか。

再び走り始め、後ろを振り向くと、立ち上がったカラ松が追いかけてくるのが見えた。
右耳にスマホをつけて、誰か、恐らく兄弟に連絡を取っているらしい。
話し声が聞こえるが、内容までは聞き取れなかった。

とりあえず大通りに出れば、人混みに隠れられるだろう。
走りを速め、逃走経路を組み立てる。
逃げ足には自信があるが、相手は男性だ。
広くて走りやすい道より、狭くて雑多な裏路地の方が相手より小柄な私には有利かもしれない。

おおまかな経路を決め、左手にある道へ曲がる。
そのまま、左、右、と曲がっていくとどんどん道は狭くなっていく。
スピードを緩めず肩越しに後ろを見ると、二十メートルほど後ろをカラ松が走ってきているのがわかる。
何か呼びかけているようだが聞こえなかったことにする。
思ったより近づいてきていることに焦りを覚えたが、かなり狭い道まで来られた。

人がすれ違えないような狭さの裏路地にはゴミ箱、室外機、空の木箱、カンやゴミが放置されている。
普段なら近づきもしないが、今の私からすれば理想的な雑多さに感謝する。
点在する不要物でできたトラップを足場に、跳ぶように走る。
どうだ、と少し得意げになっていると、後ろから激しい音が聞こえる。
思わず振り返るとカラ松がゴミ箱を倒し、木箱を踏み抜き進んでいるのが見えた。

ふと、いつだったかテレビで見たハードル走の中継を思い出す。
一番手前の選手が次々とハードルをなぎ倒して、そのままゴールしてしまうのだ。
その選手は着順は良くなかったようでスポーツマンらしく、苦い表情を浮かべていた。
そもそも失格にならないのだろうか、と呆気にとられながら眺めていた。
故意でなければ失格にはならないと知ったのはずっと後のことだ。

今は、清々しいくらいに障害物を無視して進む彼にいっそ感心する。
私は進行方向に向き直り、だけどやっばりハードルは超えるものだと思うよ、と誰にも聞こえない声で呟いた。
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