第1章 カードの手が悪くても顔に出すな
「ごめんごめん、もう見ないから食べよ?」
ほら僕たちも食べるよ、と他の兄にも食べよう促す。
私も半泣きで二つ目のサンドイッチを口に運んだ。
食事終えると、トド松からティーカップを差し出された。
カップの中の淡い褐色をした液体が湯気を立て、紅茶の香りを漂わせている。
ソーサーにはスプーンとジャムクッキーが二つ乗せられていた。
「ミルクティーなんだけど、飲める?」
何か用意してるのには気づいていたが、まさか男所帯で過ごしてきたであろう彼から食後のお茶を出されるとは思わなかった。
ともかく、それをありがたく受け取り、礼を言う。
トド松は兄たちにも同様にティーカップを渡し、自分の分を持って、席に戻った。
それから四人は、誰彼ともなく各々のことを話しだした。
とは言っても私のほうは、虚実綯い交ぜのものだが。
話しているうちにわかったのは、彼らが六つ子であること、後の三人は今日は仕事の関係で帰ってこられないこと、その三人の特徴、ぐらいだろうか。
私は仕事を請け負う際、あまり情報を耳に入れないようにしている。
必要以上に情報を仕入れたって、私のすることにかわりはない、時間が無駄になるだけだ、と考えている。
今回も依頼主からは、ターゲットの名前と顔写真、居住地などが入った簡素な書類を受け取っただけ。
その書類もいつものようにすぐに燃やしてしまったので手元にはない。
アジアから来た新興マフィアの幹部が、六つ子だというのは噂で聞いていた。
所詮噂は噂だと思っていたが、目の前の三人を見た以上信じるしかない。
六つ子というだけで、その珍しさに良くも悪くも人は寄ってくるだろう。
狙われるのは当然のことなのかもしれない。
大変だね、と頭の中でつぶやき、ティーカップに口をつけた。