第1章 カードの手が悪くても顔に出すな
話しているうちに、だいぶ状況がわかってきた。
仕事が終わり、帰宅している最中に倒れ、次のターゲットに助けられた。
そして彼らのアジトのど真ん中で、のんびり会話していたわけだ。
あまりの失態に頭を抱えて叫びたくなる。
「挨拶も済んだことだし、なんか食べようぜ。
具合悪い時は栄養とって寝るのが一番だって」
握手していた右手を解き、足元に置かれた大量の紙袋のうち一つ膝の上におき、中身を探る。
「ていうか、おそ松兄さん。
そんなにいっぱい何買ってきたの?」
トド松も十四松の口から手を離ししゃがみこんで紙袋の中を見る。
十四松はトド松の後ろから袋を覗き込む。
「いやー、女の子の好きそうなのわからなくてさ。
十四松と一緒に片っぱしから買ってきた」
ピザでしょ、サンドイッチでしょ、クッキーでしょー、と言いながら、おそ松はソファーの上に買ってきたものを並べる。
続けていくうちに、二人の間に収まりきらなくなった食べ物を私と自分の膝の上にも並べ始めた。
「量を考えてよ。
てか何これ牛丼?ほんとわかってない」
「俺はね!ケーキいっぱい買ってきたよ!
トド松前に、女の子は甘いものが好きって言ってた!」
「うん言ったけどね十四松兄さん。
具合悪い時にケーキは食べないかな」
「えー!そうなのー!?ヘコみマッスルー…」
賑やかな人たちだ。
こんな楽しそうな笑顔、最後に見たのはいつだったろう。
『こんなにたくさんありがとうございます。
お金…は今手持ちがないので今度お支払いしますね』
私はぺこりと頭を下げる。
お金はきっと払うことないだろう、ごめんなさい、と心の中で謝る。
「いいよお金なんて。
兄さん達が勝手に買ってきたんだし、僕たちも食べるから」
「えーなんかひどくない?
まあいいや、何食べる?」
えーと、と言いながらソファーの上を見渡す。
それほど量が多くなくて、食べやすいものがいい。
『じゃあそれいただきます』
サンドイッチ、と付け足して、おそ松の膝の上にのった三角のビニールに入ったサンドイッチを指差す。
「はいよ、これね。
これ近くのベーカリーで買ったんだけどさ、結構うまいんだよ」
おそ松はそう言って三角の包みつまみあげると、私の膝の上にのせた。