第12章 腹黒紳士と私*今吉*
「無理とか…自分言える立場やあらへんで?」
笑っているのに、その瞳には全く感情がこもっていない。
さすがに私も翔一のことは理解している。(多分)
ここで抗っても翔一は許してくれないし、時間の無駄。
よし、腹はくくった。
周りに人はいない、誰も見ていないと自分に言い聞かせる。
どうせ数秒の話だ。
邪魔になるから、と人が行き交う歩道の端に翔一をひっぱる。
翔一のシャツの胸元を掴んで顔を近付け、つま先を伸ばし踵を浮かせてそっと唇に触れた。
気にしないようにしてるとはいえ、恥ずかしくて照れくさくて羞恥心で押し潰されそう。
顔に熱を感じながら目を開けると、翔一はニヤリと何か企むように不敵な笑みを浮かべていた。
「そんなんじゃ足りひんわ。」
その言葉が聞こえると同時に、後頭部を手で押さえつけられ、唇を翔一のそれに塞がれた。
私がしたキスよりも深くて熱情的なキス。
酸素が奪われ、頭がぼんやりしてきて、思考回路が上手く働かない。
きっとこれもほんの数秒だったんだろうけど、その時間はとても長く感じられた。
「…あかんなぁ。やっぱ。」
「…え?」
「その顔、誰にも見せられへん。」
そう溢す翔一の頬は少し赤くなり、表情の変化を見せたくないのか片手で口元を覆っている。
紳士のふりして腹黒いし、何考えてるか全く読めない。
私が困ってるの見て楽しんでいるサディスト。
だけど、少しだけ見せてくれるこんなところが可愛くて。
だから私は彼から離れられない。