第6章 頑張れ*笠松*
幸男に背を向けて歩き出そうとした瞬間。
手首をぐっと掴まれて、歩みを止められた。
「、ちょっと待て。」
恐る恐る幸男の方を振り返ると、真剣な眼差しで私の瞳を捉えた。
「…何?」
「俺の前で我慢しなくていい。…泣いてもいいから。」
その一言が心にかかっていた枷を外したかのように、ぽろぽろと涙の粒がこぼれ落ちた。
「お前なら大丈夫だよ。気が狂いそうなほど頑張ってるんだろ?もっと自分のこと信じろ。」
「だって…不安だもん。受かるかどうかわかんないし…。」
幸男の励ましの言葉も私の不安の渦の中に溶けていく。
すると、幸男はぽんぽんと私の頭に手を置いた。
「絶対受かるなんて言わない。ただお前は何でも一生懸命で、色んなもん我慢して努力してる。だから俺はお前を信じてる。」
「そんなこと言われたら余計泣く…。」
いつもよりも優しい言葉に眼差しに、胸の奥がぽかぽかと暖かくなって、光が射し込んだような感じがする。
「、頑張れ。あと少しだろ?…受かったらどっか行こうな。」
「うん!」
これから別々の進路を進んでも、隣にはずっと幸男がいる。
そう思うと、卒業することの寂しさもほんの少しだけ和らいでくれた。