第38章 間違いが運んだ幸せ*黄瀬*
休日の夜、部屋で雑誌を読んでいると、携帯のバイブが鳴った。
ディスプレイを覗くと、彼の名前。
いつもなら嬉しい電話だけど、今日は疑問に感じた。
「今日友達とご飯食べに行くって言ってたのに…。」
もしかして、急用でもあったかな?
考え込んでいる間も、長々と携帯は震えている。
悩んでいても仕方ないので、とりあえず通話ボタンを押した。
「もしもし?涼太?」
何度か呼び掛けたけど、電話の向こう側から彼の声は聞こえてこない。
切れてしまったのかと思いきや、通話時間は一秒また一秒とカウントされている。
もう一度電話を耳に当てると、ざわついた音が聞こえてきた。
「…間違ってかかっちゃったのかな。」
電話を切ろうとしたその時。
「…じゃあ、涼ちゃん?」
聞こえてきた声は高くて可愛らしい。
紛れもなく女の子の声だった。
「涼ちゃん」って呼ぶほど親しい仲の女の子がいるの?
幼馴染みがいるとか女兄弟がいるとか聞いたことない。
電話を持ったまま呆然としていると、耳馴染みのある声が聞こえてきた。
「…まぁ、そっちの方がいいっスね。」
やっぱり涼太だ。
涼太は見た目で寄ってくる女の子たちは苦手だし、自分が尊敬した相手じゃないと尻尾を振らない。
名前で呼ぶことを許すほどの関係の女の子がいるの?
…信じてない訳じゃないけど、こういう時はすごく不安になる。