第32章 君と聖夜を過ごすのは*キセキ*
「あ、テツくん!ごめん、今やる!」
輪の中から抜け出し、テツくんにモップをもらいに行った。
「ところでさん、クリスマス僕と一緒に過ごしませんか?」
「…え!?」
顔色一つ変えずいつもの声の調子でのお誘いに、心の準備が出来ていなかった。
「…ダメですか?」
う…テツくんの子犬みたいな瞳で見られると、可愛くてドキドキしてしまう。
「おい、テツ!お前何抜けがけしてんだよ!」
「黒ちんずるいー。」
「すみません。何か騒々しくてゆっくりお誘いできなさそうだったので。」
うーん、困った。
いつもこういう時助けてくれるさっちゃんも今日いないしな。
「あ!私さっちゃんと出掛けようかな…。」
「何言ってるの!桃っちとっち二人で出掛けるなんて危ないからだめっス!」
「同感なのだよ。」
「お前とさつきがいたら、変なやつに声かけられるだろ!そのくらいわかれよ!」
やっぱりだめか。
…こう言うしかないな。
「じゃあ皆で全部やる!バスケやって、パワースポット巡って、あっくんのケーキ食べながらクリスマスパーティー!」
私の声に皆頬を膨らませたり、唇を尖らせたり、眉を寄せたり。
どうにも納得できないといった雰囲気だけど、ここは一歩も引けない。
沈黙を破ったのは征ちゃんだった。
「…それがの答えなら仕方ないね。」
「そうですね。無理を言って困らせるなら、その方がいいです。」
「…仕方ねぇな。それで妥協してやるよ。」
「ちんと一緒にケーキ食べられるし、まぁいっかー。」
「これも運命なのだよ。従うとするか…。」
「っち!年越しは俺とするっスよ!」
涼ちゃんの一言でまた皆がワイワイ騒ぎ出した。
ごめんね。
誘ってくれたのすごく嬉しかったの。
だけどあなたを選んでしまったら、皆の前で「好き」って言っているみたいで嫌だった。
必ず伝えるから、クリスマスは隣にいさせてね。