第31章 怪我の功名*今吉*
やっぱり何でもお見通しのようだ。
本当はこんなに優しくしてくれる翔一が珍しいから、怪我してることをいいことに、もう少し甘えていたかった。
それに二人きりの静かなこの時間を終わらせたくなかった。
「…嘘です。」
「最初から素直に言えばええやん。怪我した彼女放って部活行くほど鬼やないで?」
手当てする翔一の手つきは壊れ物を触るかのように優しくて、その気遣いがとても嬉しかった。
「よっしゃ、終わったで。…部活終わるの待っとってくれるなら、チャリで送るけど?」
正直一人で帰ろうと思えば何とか帰れそうだったけど、今日は何だか甘えたい気分だった。
「…うん、じゃあ待ってる。」
「ええ子で待っててや?」
翔一は私の頭をくしゃくしゃと撫でて、私の手を引き保健室を出ようとした。
すると、何かを思い出したかのようにぴたりと足を止めた。
「翔一?」
「…忘れ物したわ。」
扉一枚隔てれば、他の子達の声がする。
いつ誰が来るかもわからない。
そんな状況で、彼は腰を屈めて私に口づけを落とした。
「…の怪我治らんでほしいわ。」
片腕で私を抱き締め、翔一はぽそりと溢した。
「どうして?」
「がワシに甘えるし、手当を理由に触れるからなぁ。」
怪我の功名とは、こういうことでしょうか。