第15章 右手と左手*伊月*
映画を観ながらポップコーンに手を伸ばす。
残りが少なくなったからかすぐに掴めなかった。
すると、タイミングが重なってしまって、ポップコーンへと伸びてきた彼の手が私の手と触れた。
手を引こうとすると、そっと指先が握られるのを感じた。
そして、そのまま私の指の間に彼の指が絡み、繋がれた左手が彼の足の上に置かれた。
突然の出来事に驚き、視線は繋がれた手の方へ落ちてしまった。
彼の方をちらりと見ると、私の視線に気付いたのかスクリーンから私の方を向いた。
薄暗いからあまり表情は見えないけれど、ふっと柔らかく微笑んでいるように見えた。
すぐに彼はスクリーンの方に視線を戻してしまったので、私もまた映画に戻ることにした。
実は並んで歩いてる時、手を繋ぎたいなぁなんて密かに思っていたの気付かれてたのかな。
映画が終わるまで繋がれた手はそのままで、照明が付いた後に私は彼に聞いてみた。
「俊、どうしてこのタイミングだったの?これ…。」
私は一つになった手を指差して、彼の顔を覗き込んだ。
「手、繋ぎたいと思ったけど、どういう風に切り出せばいいか分からなかったから…。照れくさいし、さ。」
今度は顔を背けていても、眉をしかめて顔を赤くする彼の表情はしっかり見えた。
「このままでいてもいいかな?嫌だった?」
「ううん、私もこのままがいい。」
彼の右手と私の左手。
繋がれた手の分だけ、また彼との距離が縮まったような気がした。