第1章 アニキの元カノ
「泣いてたの?」
『えー?なんで?姫凪が
泣くわけないじゃーん!』
わざとらし過ぎる
僕はそんな事で騙されてあげるほど
優しくないんだよ
「涙の跡拭いきれてないし
目は真っ赤だしチョット鼻も赤いし
これで泣いてなかったとか
絶対ないよね?」
『…泣いてない。帰りたくもない』
「帰りたいか、帰りたくないかは
聞いてない」
『…蛍くん…』
布施が僕の手を握る
体温の高い子供みたいな手
「何してんの?離して」
とか言いながら
振り払えない
『…帰りたくない…』
「じゃあ大人しくアニキの部屋に
行って寝てきたら?」
『ヤダ…』
「じゃあどーすんの?」
『蛍くんと寝る…』
余りに意外な申し出に
思考回路は一気にフリーズ直前にまで
追い詰められる