第2章 甘く切ない思い出 長男
程なくしてバーテンは二杯目のカクテルを差し出してきた。
『これはカサブランカ、というカクテルです』
「これもうまそうだな〜。このカクテルの意味は?」
『これは甘く切ない思い出、という意味のカクテルです』
飲んでみるとパイナップルの甘さとラムの味が表現しにくい甘さと切なさを醸し出しているようだった。
博識で美人なバーテンのお姉さんとの会話が楽しくないはずもなく、ひたすらお姉さんと話していた。
そしてふと気づいてしまった。
薬指に見つけたくなかった【アレ】を。
そう、指輪。シンプルなデザインだし、結婚指輪か〜、なんて考えた。
「お姉さん結婚してるんだ?」
『正確にはしていた、ですけどね』
なんていうお姉さんの顔が寂しそうで、さっきまでの柔らかい笑みが消えた瞬間、胸がチクッ、とした。なんだよ、コレ。
「していた、って?」
『亡くなったんです。結婚1年目で。でも忘れられないから、ずっとつけてるんです』
重いでしょ?なんて無理して笑うから、先程より酷い胸の痛みの理由に気づいてしまった。
あー、今飲んでるカクテル、俺の心象にちょうどいいじゃん。
【カサブランカのカクテル言葉】は
甘く切ない思い出