第2章 甘く切ない思い出 長男
甘くて切ない‥‥そんな思い出は後にも先にも【あの人】だけだ。
あれは20歳になってすぐ、あるバーで独り呑んでいたときのこと。
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「バーテンさーん、なんかこう、サッパリしたやつちょーだい」
パチンコで大勝ちした俺は弟達にバレる前にパーッと使ってやろうと思い、小さなバーを訪れた。
『そうですね。ではこれなんてどうでしょう』
いくつかのリキュールをシェイカーに入れ見とれるような手つきでシェイクしている。というかこのバーテン女か。顔も俺好みでスタイルもボン!キュッ!ボン!って感じのいい体だな〜。
そんな下心でバーテンを見つめていると
『どうぞ、エル・ディアブロです』
スッと差し出されたカクテルグラスにはサッパリ‥‥という注文とは全くかけ離れた真っ赤なカクテル。
「こ、これ‥‥?」
『はい。エル・ディアブロ。見た目に反して意外とサッパリしているカクテルです』
「へ〜、そうなんだ」
ゴクリ、1口飲むとカシスとライムの甘ずっぱい味がなんともサッパリしている一杯だ。
「おお、これなかなかうまい!」
『よかったです』
「この、カクテルの名前って意味とかあんの?」
そう質問するとバーテンは
『悪魔‥‥という意味がありますよ』
そう答えた。家で待つ悪魔のことを思い浮かべた俺は少し身震いした。
『なんだか思い当たる節がありそうですね』
そうクスクス笑うバーテンはすっげーかわいい。
カクテルを飲み干した俺は他にも頼んでみよう、と思いバーテンに
「じゃあ、お姉さんのおすすめをもう一杯ちょーだい」
そう注文した。