第6章 喧嘩と仲直り 四男
「何でもいいから酒下さい」
ボソッと呟いて以降黙りっきり。泥酔する客より面倒であろう。まあどうせ、僕なんてクズでゴミでどうしようもない燃えないゴミなんだし、なんて思う。
僕がいつにも増して不機嫌なのはクソ次男との喧嘩のせいだ。あいつ普段クソな癖にこういう時だけ正論を並べるのはやめて欲しい。
そんなこんなでヤケ酒をしに来た訳だ。ドクペ以外のものを飲むのは久しぶりだ。
そんなことを考えていると目の前にグラスが差し出された。
『どうぞ、アディントンです』
‥‥バーテン、女だったんだ。
「‥‥どうも」
一呼吸間を置いてカクテルを受け取った。差し出されたカクテルには、オレンジの果汁が入っていた。爽やかで嫌な気分も晴れそうだ。
『お客さん、やっと表情が緩みましたね』
カクテルを差し出してきたバーテンはぽつり、そう言った。
「え?」
『お客さん、来てからずっと怒ってましたから。このカクテル、沈黙って意味があるんです』
「へー、カクテルに意味なんてあるんだ」
『大抵のカクテルには意味があるんですよ?』
それからバーテンはこのカクテルはこんな言葉、それはこんな言葉と、こと細かく教えてきた。
メニューにあるカクテルの意味を大体言い尽くした辺りで、
『そう言えば、何故怒っていたんですか?』
そう聞かれるまで僕は自分が怒っていたことをすっかり忘れていた。
だからだろう、返す言葉がどもってしまった。
「え、や、あの‥‥兄弟と喧嘩して‥‥」
『そうだったんですか』