第12章 君の名を(爆豪勝己)
来世は雄英のイケメン高校生になりたいと思ってた時期が私にもありました、ハイ。
Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi Pi ……
セットした覚えの無いアラームによって、深い眠りから引きずり下ろされる。
寝ぼけ眼のまま鳴り止まぬ機械音に向かって手を伸ばすが、そこで辺りに漂う甘ったるい香りに違和感を感じた。
ここ、私の部屋じゃないよね?
上体を起こしカーテンの隙間から漏れる僅かな明かりに照らされた手のひらを、握ったり開いたり動かしてみる。
硬くて、擦り傷だらけの男の手だった。
寒色系で纏められたシンプルな部屋を見渡す。
液晶画面を横にスライドさせてアラームを止める。
黙り込んだ携帯電話はパスワードでロックされていて、時刻と日付以上の情報は与えてくれなかった。
静かになった部屋で改めて頭をひねる。思い当たるのはやはり私の"個性"ビジョン。
今までも勝手に発動してしまった"個性"のおかけで、目が覚めたら知らない人の部屋が見えたというのは何度か経験していた。
しかし私のそれは他人の視界を覗き見する程度の能力であり、音や匂い、朝方の肌寒さなどは感じる事はできないはずだ。
ましてや身体を自由に動かせるなど……。
わっかんないけど、この人の"個性"かな?
もしくはただの夢か。
とりあえずもうちょい情報が欲しいよね。
本棚に並ぶ漫画と参考書から見るに、私と同じ高校生の男の子みたい。しかも結構几帳面だこの子。こんな状況にも関わらずくすりと笑みが溢れる。
どんな子なんだろ、と興味本位で通学カバンを探る。
取り出した一冊のキャンパスノート。黒のマジックで書かれた名前を見て、私は戦慄した。
爆豪、勝己……え、待って?……ちょ、ホント待って?
ヤバいヤバいヤバいヤバい!!!
私はこの名を知っている。