第8章 万有引力と恋わずらい(相澤消太)
「……って相澤せんせー、聞いてます?」
「あぁ?」
「だからー、今度の土日に北海道行きましょーよ」
「なッ!?」
「あれま。どうしたんですか、目ん玉ひん剥いて?」
『土日』、『一緒に』、『北海道』……だと?
の意図が図りきれず困惑する。
「土曜にあっちの大学で講演会しなきゃなんですけど、一人だと暇なんで一緒に来てくださいよー」
「……行、く訳ねぇだろ」
「えー、相変わらずつれないなぁ」
何だそんなことかと一人納得しつつ、クソ甘いカフェオレを飲み干す。
「じゃあ後で山田せんせー誘ってみよー」
「ぶふぉッ、ゲホッ、ゲホッ」
「そんなむせるほどカフェオレ不味かったですか?」
「冗談じゃない」
あんな軽い男と1泊2日で北海道なんぞに行かせたら、何が起こるか分かったもんじゃない。
「アイツは駄目だ……ラジオが、ラジオの生放送があるからな」
「あー、そういえばそうでしたねー、残念です。あ、香山せんせー発見」
そう言うなりは飲みかけのミルクティーを残し、通り掛かったミッドナイトの元へ走り去って行った。
「香山せんせー、土日ヒマですかー?」
あのフニャフニャした声が遠ざかっても、心臓は依然として早鐘を打っている。
もし俺の"個性"を使って平常心を取り戻せなかったら?
相澤消太は考える。
そうなると俺は、この世で1番認めたくないものを認めざるを得なくなってしまう。
眉間に深い皺を刻んで彼はその場を後にした。
ーenbー