第5章 ダイエット(木兎)※
いらない。
その予想外の答えを耳が捉えて脳で理解するまでおおよそ3秒。理解してもなお、信じられない。
木兎さんが甘い物を断った。
そんなまさか。なんですか?天変地異の前触れですか?
「え、あれ?も、もしかして、たけのこの里嫌いでしたか?」
混乱してつい口走るが、そんなはずは無い。だって以前バレー部で勃発したきのこ・たけのこ戦争は、木兎さんの『俺は平和主義者だからどっちも食うぜ!』という偉大な一言で終結したのだから。
「俺は一度決めたら曲げねーの」
「で、でも…」
木兎さんの言い分はとても立派だが、チームの練習に実害が出てる以上ここで食い下がる訳にはいかない。
「とにかく今はチョコの気分じゃねーんだって」
あ、起きました、天変地異。
いえ、正しくは天変地異ではなく、天と地がひっくり返ったと言うか……
「あれッ?」
つまり長椅子に押し倒されてます。
「ぼ、ぼ、木兎さん!ここッ!ここ部室ですよ」
「いいじゃん、誰もこねーし」
木兎さんは、あの……。
何といいますか、ものすごーく性欲が旺盛な方ですから、そういうことももちろんしてます。
だから今さら純情振るつもりはさらさらありませんが…でも部活中に、部室でなんて、やはり良くないと思うんです!
「断固拒否しまっ、…んっ」
私の口を塞ぐ木兎さんの短いキス。可愛らしくリップ音を立てて離れた唇は、逞しい筋肉で武装した身体から想像できないほど柔らかくて。
日に透かした黄金糖のような金の瞳に見つめられると、言い掛けた言葉とは裏腹に、このまま雰囲気に流されてもいいとすら思えてしまいます。いけませんね。
「木兎さん、あの、その…く、口でしますから、何卒ご勘弁をっ」
本来こんなはしたないことを口に出すのも恥ずかしいが、それが今できる最大の譲歩だった。
「んー、ダメ」
しかし、そんな提案はあっけなく拒否。
焦らすようなキスと並行して私の体をまさぐる手は、いとも簡単にTシャツの中に滑り込んで、音も無くブラのホックが外された。
「……俺はが食べたい」
とろけた砂糖の色をした、捕食者の目が言っている。
逃しはしないと。