第5章 ダイエット(木兎)※
「やっぱ練習の後は甘い物だよなッ!」
運動後の適度な糖分摂取は筋肉の補修の為にも良いということはもちろん知っている。
ただ彼の場合、その量が問題なのだ。
メロンパン、ドーナツ、チョココロネ、アップルデニッシュ…
帰り道のコンビニで買い占めた菓子パンの山。
体型維持に気を使う女子としてはおおよそのカロリーを概算するだけで、卒倒しそうになる。
そして恐ろしい事にこの人は、高カロリーの菓子パン食べながら今日の晩飯なんだろなとか嬉しそうに言っている。
もはや毎日がフードファイトな木兎さんの惚れ惚れするような食べっぷりを、馬鹿みたいに呆けて見ていたところ、何やら鋭い視線を感じて横を見る。
隣を並んで歩く赤葦が無言の圧力を掛けていたのだ。
なんとかしろ、と。
もともとクールで通っている彼だが、私が木兎さんと付き合い始めた頃から輪をかけて私への態度が冷たくなった。正直女の嫉妬なんかより断然怖い。
わかりましたよ、言えばいいんでしょ。
私は小さくため息をついて、言いました。
「…木兎さん、僭越ながら……その量は食べ過ぎではないですか?」
「へー、ほうははー?」
銀の髪をピンと立たせた彼は口に菓子パンをくわえたまま、目をぱちくり開いて生返事をする。
「最近、体重計ってますか?…あと口に物を入れたまま喋るのは行儀が悪いですよ」
むしゃむしゃむしゃ、ごくん。
言えば聞いてくれる素直な木兎さん。
そういうところ、好きです。
「そういやだいぶ計ってないなー」
最後に体重計に乗ったのいつだっけかな、と指折り数える彼に、私は梟谷のマネージャーとして厳しい現実を突き付ける。
「最近お腹周りがだらしないんじゃないですか?体重増加は跳躍の高さにも関わりますし、重い身体で何度も跳ぶとなると当然必要なスタミナも違ってきます…」
そうこれは春高優勝の為の、愛の鞭です。
「木兎さん、お願いですからダイエットしてください」