第4章 舞踏への勧誘(黒尾)
舞踏への勧誘
顔見知りの生徒会長に連れられて、私は放課後の体育館に来ていた。
舞台袖で明日行う全校集会の打ち合わせを簡単に済ますと、彼は残りの仕事があるとの事で生徒会室に帰って行った。
許可はとってあるから練習してっても構わないよ、と言い残して。
一人残された私は迷っていた。
体育館ではコートを半分に区切って、バレー部とバド部が練習していた。ここで弾いたら絶対目立つ。
そもそも会長さんが許可とったのって、たぶん生徒会担当の先生だよね。
本当に弾いて良いのかな。
「が体育館に来るなんて珍しいな」
ピアノの椅子に腰掛けたままぐるぐると考え込んでいると、懐かしい幼なじみの声がした。
「あれクロ…あ、そっかバレー部か」
黒尾鉄朗。年中空き地でバレーやってる、ウチの近所で有名なバレー少年。
…もう少年って歳でもないか。
「なんだよ俺を見に来たんじゃねーのかよ」
舞台を覆う緑色のネット越しの彼は冗談を言ってヘラヘラと笑っていた。
「明日の全校集会で校歌の伴奏頼まれちゃったの。練習してっていいよって言われたんだけど」
「ピアノ、弾くのか?」
「弾きたいけど…練習の邪魔にならないかな?」
「あー、……どーだろな」
クロはチラリとバド部を見た。
「でも俺は聞きてぇな。久しぶりにお前のピアノ」
私は少し浮かれていた。
通ってたピアノ教室を中学で辞めてから、人前で演奏するのは久しぶりだったから。
「じゃバド部に怒られたらクロのせいってことで」
演奏が聞きたいって言われて悪い気はしない。
つるつるとした手触りの布でできたカバーをとって、大きな一枚板の屋根と呼ばれる部分を持ち上げる。
「よっ、と」
鍵盤のカバーを開けて譜面立てをパタンと出せばセット完了。