第3章 光と陰は(常闇踏陰)
でもねつまらない個性だけど、私はこの個性で良かったと思ってる。
職業ヒーローになんてなれやしないけど、黒影(ダークシャドウ)ちゃんが暴走したときだけ、私は踏陰のヒーローになれたから。
「私こんな個性だからさ、踏陰に必要とされて…すっごく嬉しかった」
暗いのが怖いって毎晩のように泣いていた踏陰は、いつの間にか個性を使いこなせるようになってた。
今はたぶん、学校の誰より強い。
もう私はヒーロー引退だね。
「ねえ踏陰、私の夢聞いて!」
袖に引っ込めたままの手で冷たい鎖を掴んで、ブランコを揺らし始めた。
踏陰が雄英に行くって聞いてから、ずっと考えてた事がある。
私の新しい夢についてだ。
私はブランコを漕ぐ。
遠心力を味方に付けて、少しでも前に飛ぶ為に。
「私高校受かったら勉強して、いい大学行って、大学でも勉強して、踏陰と同じ事務所に就職する。そんで出世して偉くなって、競合他社にヘッドハンティングされそうになって……踏陰にお前が必要だって言わせるのっ!」
言い切ったところで私は飛ぶ。
重力を振り切って、どこへだって行ける気がした。
着地を見事に決めて見せ、どうだ!と振り向くと踏陰は驚いた顔をして、それから幸せそうに笑った。
「俺の人生でを必要としない時など、一瞬たりとも無い」
「…え」
「雄英に受かったら、俺と付き合って欲しい」
嘘、ナニソレ、超かっこいいんだけど。
「…ちょ、家宝にするからもっかい言って!」
慌てて携帯のボイスレコーダーを起動する。
「全く……良い雰囲気が台無しだな」
そうしてどちらからとも無く笑い出す。
明日も明後日もその先もきっといつまでも、私たちは一緒に笑う。
-end-