第17章 歌を忘れたカナリヤ
“どうしても、謝っておきたくて…
智くんと交わした約束を、僕は…きっと、守れない…
無責任な約束をしてしまって…ごめんね…
智くん…
君の歌声は…僕なんかよりずっと…
ずっと綺麗だよ…?
その歌声を…遠くにいる僕にも聞こえるように…
歌って…くれないだろうか…
僕の夢を智くんに託すのは間違っているかもしれないけど…
その綺麗な歌声を聴きたいと思う人が…
僕の他にも沢山いると思うんだ…
ゴホッ… ゴホッ…
さと、しくん…
歌を…歌って…?
僕に…届くように…”
カセットテープの音は
そこで途切れていた
僕は正座をしたまま
ズボンを握りしめて
涙が枯れるまで泣き続けた
『送っちゃった。勝手に。』
『はぁ?!』
母ちゃんが俺に内緒で芸能事務所に履歴書と写真を送っていたと知ったのは
中学二年の時だった
『アンタなんかが受かるわけないでしょうがっ!』
その一言にカチンときたが
一次審査合格の通知が届き
二次審査には母ちゃんと共にレッスン場へ行き
余りに人が多くて踊れと言われても踊れるわけもなく
窓から手を振っていたら社長さんに怒られた
前に出されて踊らされて…
そしたら…何故か受かってしまった
芸能人になるつもりなんて、更々無かったのに
これも運命なのかな
音さん…
俺、音さんの夢を背負ってもいいの…?