第17章 歌を忘れたカナリヤ
ゆびきりげんまんの日から3日後
僕は学校帰りにお兄さんの病室を訪ねた
“太陽がいっぱい、覚えたよ!”
そう伝えたくて
『お兄さん!』
勢い良く開けた病室の扉
その向こうに
お兄さんの姿はなかった
荷物は全て無くなっていて
ベッドにも…布団は敷いていなかった
『ねぇ…!
お兄さんは?!
シロサキ オトさんは、どこに行ったの?!』
『智くん…』
看護師さんが、困ったような顔をしている
嫌な予感がした
お兄さんに何かあったんだ…
お兄さん…
オトさん…!
大人は誰も何も教えてはくれなかった
その2日後
僕の元に一通の手紙が届いた
差し出し人は、お兄さんのお母さんだった
“智くんへ
突然ですが、音は遠いところへ行かなければならなくなりました
ちゃんとお別れも出来ずに、ごめんなさいね
智くんが病室に来てくれる事を
音はいつも嬉しそうにしていました
お別れが出来なかった代わりに
音から預かったカセットテープを送ります
仲良くしてくれてありがとう
城咲 律子”
漢字にはふりがながふられていて
封筒の中には手紙の他に、カセットテープが一本入っていた
何故だろう
涙がどんどん溢れてくる
いつかまた会えるよね…?
会えるんだよね…?
震える手で、カセットデッキにテープをセットした
再生ボタンを押すと
聞こえてきたのは、大好きな人の声
“智くん…”
絞り出したようなその声はなんだかとっても辛そうで
キュッと胸が締め付けられた
“音です
僕の声…届いていますか…?”