第17章 歌を忘れたカナリヤ
『ねえっ…!
ちょっとだけ、ちょっとだけその雑誌、見せてもらっていい…?』
だって、そこにはお兄さんの夢がたくさん詰まっているから。
『ふふっ。いいよ?』
隣においで、と
ベッドの縁をポンポンと叩くから
僕は靴を脱いでそこに座った
『わぁ…』
テレビで見たことのある歌手の人がたくさん写ってる
『あっ!』
『知ってる?』
『うん、知ってる!
クラスの女の子が、みんな好きみたい!』
『そうなんだね。
歌は、知ってる?』
『うーん…なんとなく…
お兄さんは? 歌える?』
『歌えるよ』
『ホントに?
歌って!』
『じゃあ、少しだけね?』
“幾千分もの奇跡を こえて巡りあった夢
君にしか 話したくない
これからそこまで 泳いで瞳をさらいにゆくのさ
その髪に その指に 太陽がいっぱい…♪”
お兄さんの歌声は
透き通るように伸びやかで
凄い
歌って、凄い
ううん
お兄さんが、凄いっ…!
『お兄さんっ…!
なって!
歌手になってよ!
僕、ファンになるから!
きっとだよ?
約束だよ?!』
興奮気味に捲し立てる僕に小さく笑って
“うん、約束ね”
って
僕たちはまた、ゆびきりげんまんをした
『珍しいわね、智が歌番組見たいなんて』
『この歌覚えるんだから、みんな静かにしててよ!』
この日、僕はアイドルの歌を初めて自分から進んで覚えようとした
テレビにかじりついて
次にお兄さんに会った時
僕も…一緒に歌いたいんだ。