第8章 空白の時間
「………ッ、ごめん蝶ちゃん、伝言はきっと…ぐ、っ!」
『…お願いします』
部屋の外で組合の構成員に捕まったのか、敦さんはどこかに連れていかれてしまった。
そんな状態でどうやって脱出なんて?
そん思われるかもしれない。
けれど、私の中にはその答えはもう既に出ている。
ずっと前から、その可能性は持っている。
あとはきっと、時間の問題…彼女は多分、私の事まで頭を回して悩ませているだろうから。
人の気配がなくなって、ポツリと言葉を漏らす。
『トウェインさん…私、頑張った……?』
「うん、頑張った。…薬の効果は?突然普通に戻っちゃったみたいだけど」
『…怒ったらどっかいっちゃった。体質のせいかも……ねえトウェインさん、私頑張ったよ?』
ジ、とトウェインさんを見つめると、ハイハイと言いながら頭をもっと撫でられる。
『…………もうしないでね』
「…うん、きっともう大丈夫。大丈夫だよ、蝶ちゃんは綺麗なまんまだから」
よしよしと背中に手を回して、安心させるように言う。
『綺麗?…そんな事、ない。私、もうダメな子になっちゃったの』
「どこもダメなんかじゃないよ。君、媚薬使って散々焦らされてたあの状態で、結局僕にダメって言ったんだよ?並大抵の人間が出来ることじゃない…僕じゃあやっぱり敵わないや」
これだけのことをしても、一時の気の迷いでも中原中也には勝てなかったよ。
ハハッと困ったような顔で笑うトウェインさんに、どうしようもなくいたたまれなくなった。
『……ごめんね、トウェインさんが優しいから、いっつもそれで助けられてるの』
「いやいや、本当なら何もしないであげたかったくらいだよ。すぐにでも楽にしてあげたかったけど……そうしたらそうしたで、蝶ちゃん後になって絶対後悔しちゃうでしょ。女の子はそういうの、大事にしたいだろうし」
『!…ふふ、トウェインさんちょっとだけ中也さんよりマシなところあるかもね』
クスリと笑って言えば、トウェインさんがキョトンとする。
「えっ、何何!?君からあの男よりマシな部分があるとか普通出てこないよねそんな言葉!?」
『うん、トウェインさんも十分あれだけど、中也さんよりはちょっとだけデリカシーがある』
「なんかあんまり嬉しくないよそれ!!?」
もー、とむくれながらも頭を撫で続けてくれ、それから手枷を外してくれた。
