第6章 あたたかい場所
「蝶ちゃん裏山の方に行かなくて本当に大丈夫なの?今日は何人かが虫取りに来てるから、念のためって来たんじゃなかったっけ」
カルマ君の言う通り、今日は潮田君と杉野君、倉橋ちゃんと、そして何故か意外にも前原君が虫取りをする為に裏山に来るという話があったから椚ヶ丘に来たのだ。
まあそっちに混ざってもいいのだけれど、それだけならばわざわざカルマ君と一緒には来ていない。
『うん。でもカルマ君も、体操服持ってきてるでしょ?』
バレてたか…と軽めの鞄を出すカルマ君に、話を続ける。
『やっぱり。虫取り組に何かあったら、すぐそこの山で起こるくらいなら私気づけるから。折角校舎の方に誰もいないんだし、格闘術の方だけじゃなくって防御術の方も出来るよ』
私も持ってきていた鞄の中から体操服をチラリと見せてにっこりすれば、流石だわと笑われた。
グラウンドでまずウォーミングアップでもというようにカルマ君の攻撃を私が捌くのを繰り返す。
捌く…というより避けると言った方が正しいかもしれないのだけれど。
「やっぱ中也さんの一番弟子…っ、全っ然当たんないね」
『いや、こればっかりは経験の差だよ…一般人でこれだけ動ける人滅多にいないし、驚いてるくらいだよ私』
「かすりもしないのにそんなこと言う?」
『今日は人質取られる心配もないから特別集中出来てるだけだよ。私体術そんなに得意ってわけじゃないし……でも、相手より力が弱くても渡り合う方法は結構あるんだよ』
言いながら、避けるのをやめてカルマ君の攻撃を捌き、国木田さん直伝の方法でカルマ君を一回転させて投げる。
勿論痛くしてはいけないので、地面に着地させることなく腕で上手く支えた。
「これは流石に知らなかったかなぁ…」
『隠し玉は取っておかないとね』
体術の中でも、相手が自分より力を持つ場合に用いる事の出来るものは意外とあるのだ。
合気道なんかはいい例だろう、相手の向かってくる力を利用して流し、返り討ちにするという表現が正しいだろうか。
「確かに、力で勝てない相手もいるもんね…っと、ありがとう」
カルマ君の体制を立て直させて、手を離す。
『そうそう。カルマ君くらい力があれば大丈夫かもだけど…………習っとく?』
教えておこうかと問えば、すぐにうん、と即答された。
「俺も、蝶ちゃんみたいに強くなりたいから」