第28章 少女のいる世界
『至福のバニラ…♡』
「とりあえずその三個目までだぞ?いいな?」
『…蝶今日頑張ってお薬飲みました』
「薬飲むのは当たり前だろ、俺のゼリーまであったんだから飲まねぇわけねえよな?」
『せ、せめて十「あ?…何か言ったか?」いえ、何も』
目が笑ってなかった。
流石にこれは折れた…親バカ極みモードに入ってるし。
『…口の中寂しい。中也さんちょーだい』
「さっき散々したから一旦中也さんは休みです、仕事します」
『中也に振られた。死んでいい?』
「振ってねえからダメ。死んだら殺す」
口癖移ってるじゃん、人に突っ込みまくってたのに。
『……じゃあ勝手にくっついてる』
彼の椅子を引き寄せて、書類に目を通すのも無視して腕を回す。
「おう、好きなだけくっついとけ。すぐまた一区切りつけてやっから」
わざわざ中也が目を通さなくてもいいようなものなのに、ほんとに律儀なんだから。
まあ、私も言えないのかもしれないけれど。
『んー…、中也さん不足~…』
「俺も蝶が足りねぇなあ、ざっと二週間分くらい」
『ねえ~…』
「だーめ、大人しくしてろ。あんまし過ぎると熱上げちまうから」
じゃあいいもん、勝手にするもん。
熱のせいか行動力に溢れすぎている今、中也はここにいるんだから、自分からする分には問題ない。
仕事中なんて構うものか、こっちはざっと数十年ぶりくらいの感覚なのに。
中也のベストとその下のシャツのボタンを外し、彼の鍛え上げられた腹部に紅く印を付けていく。
「……、…っ…おい、蝶」
『…大人しく一人でチューしてます』
「あのなぁ…腹は流石にクるから、別のところにしてくんね?」
『だって他のところだと書類読むの、物理的に邪魔しちゃうじゃない』
「いい子なのかいたずらっ子なのか……口が物寂しいなら、指でよければ?」
目の前に差し出される片手。
…これは、誘われている。
書類を机に置いて読み始めた中也の、使っていない左手。
手袋を外されたその手の手首と手の側面から両手を添えて、頬を擦り付ける。
うん、好き。
大好きな手だ。
「くすぐってぇぞ?さすがに」
『…、ン……っ、…は』
「…」
恐れ多くもその指に口付けを落としてから、口に含む。
私が自分からしている…はずなのだが、どうにもさせられている気分だ。
「……美味しい?」
『…ん』