第28章 少女のいる世界
「なにむくれてんだよ、お前が体調悪いのに抱けるわけあるか」
『…意識飛ばさなくてもいいじゃない』
「無理矢理にでもそうしないとお前、引き下がらないくせに」
『中也とお話する時間まで全部睡眠時間で消えた』
「病人は本来寝とくもんなんだよ」
だからいっぱいキスしてたのに、なんて漏らす中也。
この確信犯め。
前にもあったなこんなこと。
「…まあ、馬鹿みてぇに恥ずかしがり屋なお前があんだけ頑張って誘ってくれたんだ。それに見合うくらいは可愛がってやるよ、心配すんな」
確信犯…いや、ちがう。
見透かされてた。
『心配とかしてない』
「してねえのに俺にあんなに甘えてたのかよ?それこそ天変地異の前触れレベルだぞ」
『…別に…、なんで私が甘えたら…?』
「……記憶なくしたの気に病んでたんじゃねえの?記憶がなくてあれだったんだから、戻って蝶になったお前が?俺を目の前にして?怖がらねえわけねえだろばァか」
つらつらと並べられるその理論に反論はできなかった。
見抜かれてる、恐るべし中也。
『じゃ、あ…普通に寝かせたら良かっ「俺だってマーキングしたかったし。我慢しすぎて禁断症状出るかと思った」…変態』
禁断症状という名の夜這いもどきだ。
私の意識を飛ばして寝かせた挙句…増えている赤い印が、いかに彼を我慢させていたのかを物語っている。
結局、手は出されなかったもんな。
寝てる間も。
キス止まりばっかりで。
「そんな変態が好きな奴がよく言うぜ。嫌なのかよ」
『禁断症状発症するくらいならもっと手出しときなさいよ』
「お前強請る時ほど上からになるよな?可愛い」
『なに?悪…、っ……そう、いうところなんだから…!』
また、勝てなかった。
身体中についた紅い華が嬉しい上、幸せで満たされているから何も言えない。
私も大概頭のネジが飛ばされてる。
「…じゃ、今度こそおかえり。蝶」
『……中也さんの力不足でこうなったんだからね』
「素直じゃねえ奴。知ってるけど」
顔を背けてむくれているのが無性に申し訳なくなってきて、嘘だもん、と小さく本音を呟いて抱きついた。
好きで好きで仕方ないんだから。
ただいまとか言ってあげないし…そもそも離れたつもりないし。
「おー、やっと来た。お前クッソ素直だよな」
『言ってること違う』
「今回は見破りやすかったからな」