第27章 飢えて枯れてなくなった
中也が一気に間合いをつめて殴りかかる。
普通なら異能付きの攻撃を受けて、骨はおろか組織まで破壊されてしまうはず…なのに、それを柳沢は耐える。
「…っ、流石に中々効く。だが、今の俺ならこの程度…!!!」
柳沢から距離を取った中也は、今度は重力を操作して柳沢の身体を地面にめり込ませる。
しかし、それになんとか抗って…柳沢は、超重力のもとで、なんと立ち上がった。
『重力に、耐えた…っ』
「俺が最も憎い存在を教えてやる…!そう、お前だよ中原中也!!!あのモルモットもそうだが、それよりなによりお前が憎い!!!!この俺から…っ、零を!!!!」
「…元々手前のもんでもねぇだろうが」
「うるさい!!!!…一度そいつが、自力で実験施設から逃げ出した時があった…何かと思えば外の世界に出て行ったんだ!そして、俺が捕まえた時…そいつは俺の求めていた力のほぼ全てを失っていた!!!!」
『え…?』
柳沢の放った言葉に、恐らく嘘はない。
しかし、私の中に…その記憶はない。
「だから腹いせに何度だって殺したさ…もう二度と外に出ようだなんて馬鹿げたことを考えないように!!……まあ、最終的には何が怖くなったのか、記憶までぶっ壊れてくれてしまったみたいだがなぁ」
『…そ、れって……』
「!蝶、聞くな!!!」
どくん、どくんと胸が脈打つ。
あれ、そんな…私、柳沢にそんなことを…?
「なぁ、零…俺はいつだって言い聞かせていただろう??お前は美しい…何にもそんなことを思わなかったこの俺が、唯一見惚れた存在だ………お前の苦しむ瞳や、息絶える瞬間のあの吐息!!あんなにも美しいものが、他にあるか!!?」
『な、に…を…?』
「俺はなぁ…、お前ほどまでに美しいものに出会ったことがなかったんだよ…!お前のその喉が!!!呼吸を辞めるその瞬間!!!!…あれがたまらなく美しい…っ」
頭の中を流れる映像。
ああ、そうだ、私は一度この男から逃げて外へ出て…外国に逃げ、確かに小さな男の子を助けた。
そしてその時の相手の組織によって、日本へと売られたのだ。
渡航中に買い手の名前が柳沢だと知り、しかしまだこの世界の地理を把握していなかった私は、陸まで大人しく同行した。
そして、横浜の港についてから組織から逃れ、途中で異能力者に阻まれながらも逃げて、逃げて…
そこで、蒼い瞳の少年を見つけたのだ。
