第23章 知らなかったこと
私が彼に頼んだのは、今回の任務の作戦を一緒に練ってもらうこと。
彼と二人で考えれば、どうにかすれば三ヶ月もかけずに遂行できるような気がするのだ。
そしてそれは、勿論できた。
予想通りに…できすぎたほどに。
そしてそのお礼に払った対価に、今私は自分でも予測していなかった事態に陥っている。
『…ちゅやさんはぁ…?』
「あいつは今ね、蝶ちゃんと会うために準備してるの」
「太宰…お前、白石に盛っただろう…なあ…」
「蝶ちゃんに…な、なんで“お酒飲ませた”んですか太宰君!!?」
何度か連れてきてもらったことのあるバー。
太宰さんと安吾さんと、作之助と。
『蝶のために…?…えへへ…』
「まだほろ酔いっぽいから大丈夫だって」
「大丈夫って、お前知ってるだろ?こいつがどれだけ酒に弱『嫌だった…?作之助…』…お前それはずるいんじゃあないのか?」
頭をふわりと撫でられれば不思議と嬉しくなってくる。
『もっと撫でるの〜…♪』
「はいはい…可愛い可愛い」
『!?…か、わ…かわい…っ、はわ…』
「ちょっと織田作?私こんな蝶ちゃん知らないのだけれど君達いったいどういう仲なの?」
「強いて言うなら………“お兄ちゃん”ってところだな」
『!!』
ぼうっとする頭でも理解できた。
まだ覚えてたんだ、そんな話。
「お兄ちゃん?…蝶ちゃんの?」
『…いーの…?さ、作之助お兄ちゃん…っ』
「!…よしよし…お前よく甘えるようになったなあ本当に」
「いや、今は完全にお酒のせいでしょう…?」
心地いい。
そういえば、私の全部を知ってるんだったっけこの人…なのに、その上でこんな風に言ってくれるんだっけ。
腕を相手の首元に回して飛び付くと、思っていたよりも軽く受け止められて、向かい合わせになるように彼の膝の上に座らせてもらえる。
「驚いた……太宰、安吾もすまない。少し外に出てくる」
「え?…ああ、行ってらっしゃい」
私を抱えて、外…というより、密室に移動する作之助。
「どうした…相談か?また何か溜め込んでるか?」
『…ん〜ん……え、と…』
「……兄のことでも思い出したか」
図星を突かれて作之助の肩に顔を埋めて、こくりと頷く。
私が彼に身を預けるのは、いつもこういう時だった。
いつも、寂しくなって…他の誰にも頼れないような時だった。