第23章 知らなかったこと
「なんでも何も、お前のことはちゃんと全部聞いてるからな?別に思考まで分かるわけじゃあないが…人間、そんな状況におかれてそうならない方がおかしな話だ」
どこまでもお前が“普通”の“人間”だから分かるんだよ。
そう言った彼は私の目の前にやって来て、膝をつく。
『…なぁに?慰めのつもり?』
「……酷い顔してるぞ、笑えてない。…けど、今の方がいつもよりもよっぽど可愛げがある…俺は今のお前の方が好きだがな」
『今、って…「我慢してたんだろ?…寂しかったって言ってたじゃないか…ちゃんと思ってること、誰のことも気にしないで吐き出して」!!…いいじゃない、別にもう誰に嫌われようが何ともない』
「お前は…言葉を選んで生きていかないと、誰にも好いてもらえないと思っているのか」
『え…?』
意識なんか全然していなかった。
だから、どうして核心を突かれたような気分になったのかさえ分からなかった。
「……太宰から聞いた、さっき何があったのか。…お前、あれだろう?“また”強がって笑ってやがったんだろ」
『…強がってない。だってあんなの、私が受けたところでなんとも「中原がそんな状態だったから、お前は肩代わりしたんだろ?」……何が言いたいの』
「言ってやればいいじゃないか、中原が瀕死になってるのに耐えきれなくて衝動的に動いてしまったって…怖がりなくせして、頑張ってしまったんだって」
『そんなこと中也さんに言えるはずが「俺は中原に言えばいいとは一言も言ってないけどな」…!!!』
かまをかけられた…気がする。
「中原が怒るのはそこだろ…どれだけお前が怖いと思うことでも、それをやってのけてしまった後に……強がってお前は、誰にも心配させないよう振る舞うな?」
『だから、私は「怪我の話を聞くのでさえも怖がるようなお前がか?」それとこれとは…っ』
「…お前の演技は立派なものだ。だが、だからこそ誰も気付かない…誰にも気付いてもらえない。…言わないと分からないんだ、特にああいう真っ直ぐな奴には」
____ただ、怖かっただけなのだと。失いたくなかっただけなのだと。
「ちゃんと伝えたか?自分の身体ならなんの問題もないだなんて考えで動いたわけじゃないってこと…そんなことを考えるよりも、もっと恐ろしかったことがあるんだってこと」
お前が、ただの怖がりな一人の子供なんだってこと。