第22章 云いたかったこと
「…もうちょっと?」
『……もうちょっと』
「かれこれこのやり取りを二十回はしてる気がするのは俺だけか」
『…ダメで「ダメじゃないです、好きなだけくっついててください」…♪』
私の体よりも大きくて、しっかりしてる中也さんの体。
こんなにも安心する…こんなにも、あたたかくなる。
「……来てくれるようになったはいいが、いつもこんくらい甘えてくれりゃあいいのによ?」
『いつも中也さんに甘えてばっかりで「全然できてねえからもっと甘えろ、これ命令」…じゃあ蝶、大人になったら中也さんのお嫁さんになる』
「おう、それならいつでもどんとこ…ッ!!?お、おまっ…いや、えっ、は!!?蝶さん!!?」
意味わかって言ってるんすか!!?
なんて敬語混じりになって明らかに動揺する中也さん。
『…そんなに馬鹿に見えます…?』
「いやいやいや、そうじゃなくてな!?…い、いや…他に嫁に出す気は毛頭ないが……そ、そうか、俺か…お前が大人になって俺のこと好きになったら…な?」
視線を外されて、軽くはぐらかされたような気がした。
これは要するに、本気で捉えられてはいないということ…まあそれはそうか、私今六歳でこの人は今十四歳だもの。
…私の事、そういう風には見てくれないのかな、やっぱり。
『……蝶は中也さん一筋です』
「!…俺の方こそお前の事しか頭にねえよ」
これが普通の男女の会話なら…私が子供じゃなかったら。
きっとこの人は気付かない…私がどれだけ好いているのか。
私が、どれだけ欲しているのか。
今も…これからも。
「だがまあ…嬉しい事言ってくれた礼はちゃんとしねえとな」
『え…、っきゃ…!?…へ、…あ、え…!?』
突如持ち上げられた体に困惑する。
軽々と持ち上げられたかと思えば横抱きにされて、中也さんの顔がすぐ近くにあって。
私に何かあったわけでも、怪我してるわけでも緊急事態なわけでもないのに、こんなこと…
顔が熱くなるのを感じて口を震わせていると、クスリと笑って中也さんが私に言う。
「いいのか?捕まっとかねえで…今日お前、寝るまでこうやって移動するからな?」
『へぁ!!!?』
一瞬でショートさせられた。
…強すぎる、この人。
分かってやってるのかな…いや、天然だろうな。
よく言えばそう、だけれど。
六歳の体にして私は悟った。
彼は恐らく鈍感なのだ。