第18章 縁の時間
「だってあんた、見たところそういう経験なさそうじゃない?体つきはかなり良いとは思っ…!」
「言いたい放題言ってくれ…ッ!?」
『………だぁれ?私の中也さん取ってっちゃうの…』
グ、と腕を引かれてそちらに傾いた体。
見れば頭を撫でていた手が引っ張られていて、蝶がギュウ、と両手で離すまいと俺の腕を捕まえていた。
上半身を起こした蝶に俺もイリーナも目を見開く。
「ち、蝶…?あんた何か勘違いして…」
『体つきってどういう事…』
「だあああ!手前が紛らわしいこと言うからだぞ!!?いいか蝶、俺はお前以外の奴とは微塵もんな関係は…っておい、よく見ろ!こいつはイリーナだぞ!?寝惚けてるだろお前!?」
『イリーナせんせ…?……あ、れ?ここ保健室…』
蝶の目がハッキリと俺を捉えたようで、蝶の目の焦点がパチッと合う。
蝶の目の前でしゃがんで目線を合わせていた俺のそれとピッタリ目が遭って、蝶は目をぱちくりさせた。
「起こしちまったか?悪い、本当はゆっくり寝かせてやるつもりで…蝶?……おい、目ぇ覚めたんだろ?おい」
『へ…あ……中也さ…ッ!!?やッ…あ、あっち行って下さい!!!』
「んなッ!!!?……っておい蝶!?なんで俺に能力使ッ……あ、こらっ!待て!!!」
蝶に能力を使って無理矢理保健室の隅に移動させられ、その隙に蝶は保健室からバタバタと出て行ってしまった。
待て、どういう事だ。
俺は確かに何も蝶に嫌がられるようなことはしていないはずで…
「……手前何笑ってやがる」
「ざまあみろって思って?」
「…とりあえず教室に「あんた、さっき蝶に何してきたの?」は?さっきって…まあ色々」
「そこで鈍感になってどうすんのよ、これだから男は………あの子の顔、完全に乙女になってたわよ?男経験が浅いああいうタイプは分かりやすいってのに…相当嬉しい事でもしてあげたんじゃないの」
嬉しい事?
嬉しい事をしたらああなるのか?
女って本当に分からねえ…
「嬉しい事も何もねえと思うんだが………?」
思い当たるものといえば最後にしたキスくらいのもの。
それ以外は正直無理矢理流れを作ったという面も否めないため、寧ろ嫌われる要素の方が多いのではないかと思えるほど。
「いや、どう考えても照れ隠しでしょあれは…いじめちゃだめよ、いくら知識や経験があっても中身は純粋なんだから」