第17章 0
「……なあ、蝶さん?一ついいか?」
『………はい…』
「なんで着いてきた!!?」
『中也さんいないの嫌なの!!!』
中也の腰に腕を回して抱きつきながら、夜の椚ヶ丘中学へとやって来た。
理由としてはとても大変かつシンプルなもので、あろう事か中也からいただいた髪飾りを訓練前に教室に置いたまま…そのままにしておいてしまっていたのだ。
中也は明日取りに行けばいいと言ったのだけれど、それでも私が駄々をこねた結果、絶品スイーツを食べ進めるのを中断して椚ヶ丘への扉を作って来たのである。
しかし、そこでまさかの事態が発生した。
「この時間帯にこんな山奥の街頭もねえところお前の苦手な場所にも程があんだろ!!?すぐ取ってきてやるから部屋入ってろお前は!!」
『く、暗いのより中也さんいない方がやだ!!!』
「だああっ、ビビりまくってるくせして一体何を……っ?明かり…!!おい、蝶!!!」
『……煙…燃えてるにおいするよ、これ』
唐突に校舎の方から見えた光。
そこには煙のようなものが上がっていて、微かに焦げているような匂いが漂ってくる。
間違いない、あれは火だ。
中也とすぐさまそちらに向かうと、なぜだか渚君と渚君のお母さん…それからいかにも殺し屋らしい雰囲気を漂わせる男の人が向かい合わせになっている。
「この時間はあいつが固定砲台とドラマを見るためにここに来るんだって……!だ、誰だ!!?」
鞭を持った男と渚君達の間に入るように出て行くと、相手の男は動揺する。
『あの、暗殺するのは構いませんけど…人の友人のお母さんに手出すのやめてもらえません?』
「おい、潮田の母親気絶してんぞ。いいのかよ」
『そこは渚君が何とかするでしょ。中也さんもこっちいて』
私たち二人の登場に渚君までもが唖然とする。
あーあ、火だって早く消さなくちゃなのに…でも今あれに消えられちゃうとめんどいんだよな。
『…で?お引取りのお願いは……』
「はあ!?んなもん通すわけが…って待て、お前横浜の武装探偵社の白石蝶だよな!?なんで……なんでそんな奴の隣にポートマフィアの五大幹部の中原中也が____」
言いかけたところで、男の人は口を開けたまま固まった。
私が投げた小さなナイフが掠れたからだ。
『………ねえ、人の中也さんのことさ?気安く呼ぶのやめてもらえない?悪いけどこの人私のなの』