第15章 大切な人
遠慮なく中也さんの腕の中からするりと抜けて、それから人混みをすり抜けて走って店の外に出て行った。
…なによ、なんでこんなに嫌な奴なのよ、私。
さっき来た人、あの人知ってる人だったじゃない。
知らせてくれてって、あの人のおかげで中也さんが来てくれたんじゃない。
馬鹿みたい、こんなちっちゃい事で嫌になって逃げてきちゃうなんて。
嫉妬とか、そんなレベルの話じゃない。
仕方の無いこと、あの人は知らないから仕方無い事。
だけど私は以前のあの人を知っているから。
『………ッ』
今、死にたいくらいに自分が憎い。
なんで不満なんか持ってるの、それ自体がもうおかしな話じゃない。
育ててもらって、幸せにしてもらって、それだけで飽き足らずにまだ不満があるなんて。
嫌な人間に育ったものだ。
悪い子になっちゃったものだ。
いい子にしないとダメなのに、いい子でいないと嫌われちゃうのに。
____いい子にならなきゃ、捨てられちゃうのに____
本能に根付いた想いが頭の中で響き渡って、そのまま強制的にシャットダウンされてしまったかのようにプツリと意識が途切れた。
直前に見たのは地面だったような気がする……それと、とても痛かったような。
懐かしい懐かしい感触だった。