第15章 大切な人
昼食も丁度食べ終わったところで、中也さんの両頬に触れ、それから目を見つめる。
『……いいの?後悔しない…?』
「なんで俺が後悔なんかするんだよ、なんなら全部思い出させてくれたっていいんだぜ?」
『…それはまだ、ちょっと怖い…から……』
「……そうか。んじゃ、頼む…ったって、いったいどうや……___!?」
中途半端な思い出し方をしてもらうためには、少々工夫が必要だ。
まずは私が中也さんの記憶を覗き込んで、そこから能力を使ってある程度の所でロックをかけ、状態異常を治さなければならない。
中也さんの記憶の中で、私と再会したばかりの…最近の記憶だけを残して、後のものには影響が及ばないよう、保護をかける。
それから自身から紅色の蝶を一羽だけ舞わせ、ごく微量の血液を口に含んでキスをした。
『ン……ッ、は…っ』
最初は何だか分からず動揺していた中也さんだったのだけれど、身体が覚えていたのかなんとなくか、血液をちゃんと飲んでくれる。
「…っ、な、何飲ませ……ッ?鉄…っ、?ぐ…、ちょっと……なんだ、これ……?」
『……私の血。…ごめんなさい、こんな方法しか出来なくて』
「いや、い……ッぐぁ…ッ、?……は…、はぁ……」
中也さんは頭を抱えて唸るような声を上げ、しかし思っていたよりもすぐに頭痛はおさまったのか、力んでいた力を脱力させたようだった。
その様子を恐る恐る見ていると、中也さんが突然こちらに目を向ける。
それに思わず一瞬怖くなってビクリと肩をはねさせれば、中也さんは私の方に向かって手を伸ばし、そっと頬に触れる。
『……ッ?…な、なんです……っ!?ン…ンン……!!?』
それからすぐにまた口付けられて、何も言わずに何度も何度も、触れるだけのキスが繰り返される。
ちょっと強引で、なのに優しい中也さんのキス。
優しい手つきで私を抱き寄せて、安心させるために頭も撫でてくれて…
ああ、これだ……知ってるよ。
中也さんのキスだよ。
『ぁ…ッ、ち、中也さ……っ?』
「……そこは中也って呼んではくれねえのかよ…?……蝶」
『!!…ぁ…ッ、ど、どれくらい思い出して…?』
「まだ少し曖昧だが、今年の分はだいたい…すまなかった。……本当に、ごめん…ッ」
少し声を低くして、落ち着いたような…けれどもどこか泣いているような。
私の知ってる中也さんだ。