第14章 わからない人
そうだった。
色々と話がぶっ飛びすぎてて意識していなかった。
半年もしねえうちに何かが起こるのは確実なんだ。
仮に死なずにまた生き返ったとしても、その時こいつはまた子供になってしまう上、そうじゃなく本当に死んじまうという可能性だって大いにある。
俺が守るだとかんな事を言ったところで、不安が取り除かれるわけでもなければ俺の記憶がそれまでに戻る保証なんかどこにも無い。
あるとすればこいつが俺の脳を弄ってくれるという確実な方法なのだろうが、それは蝶が断固として拒否している限りは現状無理だ。
……だが、どう考えてもこんな事、俺が決めていいようなもんじゃねえだろ。
俺は確かに俺ではあるが、前の俺とは同じであるわけではないのだから。
「…蝶、やっぱりもう一度冷静になれ。お前がそこまでの事を許そうとした相手は今の俺じゃ……」
『……っ、中也さんだもん…ッ、記憶がなくたって、中也さんだったもん…!!』
「ち、よ…?」
『忘れられちゃったのは悲しいし寂しかった…けど、すぐに中也さんは私のところに来てくれた…中也さんは中也さんだもん。……っ、中也さんに何があったって私、大事にするって…変わらず大事にするって約束してる…』
何があっても大事にする。
そんな子供じみた無茶な約束…いつしたものなんだ。
それでも、と反論しかけたところで頭痛が走る。
ガンガンと疼く頭を片手で押さえ、蝶の必死な表情を見ていると、何かの光景が頭に浮かぶ。
暗い中…俺の腕の中で血を流し、身体に大きな穴を開けた蝶。
自分の手にはその蝶の血が恐ろしいほどベッタリとついていて、それが手袋をしていないというところから、これが少し前に聞いた汚濁の話なのかとあっさり納得した。
冷や汗を流しながらもその先は、と思い出そうとしていれば、傷が段々と塞がってきた蝶が俺に向けてそう言ったのだ。
何があっても俺を大切にするんだ、と。
それから少ししてから太宰の糞野郎の姿が見える。
……ああ、そうか、そんな事もあったのか。
そこまでしてそんな事を約束してまで、こいつは俺といたいってのか。
…………なんつう幸せもんだよ、俺は。
『…ちゅ、やさん…?どうし……』
「……最後まで…条件付きで良いならさせてくれ」
『!!………なぁに…?』
俺の口にした条件に蝶は目を丸くさせるのだが、それでも頷いてくれた。
