第14章 わからない人
つい勢いでやり過ぎた……のだろう。
完全に蕩けちまったような反応をする少女を腕の中に抱きながら、額や頬に繰り返し口付ける。
どうやら俺は本当にこいつにキスをするのが好きらしい。
危ない橋を渡りかけてはいるものの、かなり堪えるものがある。
とても普通の餓鬼には見えねえこの少女をどうにでもしちまいそうな自身を抑え込んで、なんとかここまでにとどめておかなければ。
「…っは、……随分蕩けた顔してんなぁ」
『……に…?』
蝶は俺のシャツをなんとか手で掴んだまま、震えた声で何かを問う。
「どうした」
『い、まの…何…っ?あ、あんな仕方された事なんか…』
「…悪い、調子に乗ってやりすぎ『違、くて…』あ?」
違うと言って、蝶は少し目を逸らしてからチラチラと遠慮がちにこちらを見る。
そして暫くの間そうしてから、蝶は俺を抱き寄せるようにして俺の胸に顔を埋め、言う。
『……初めて好きなようにしてもらえた。初めて、余計な気なんか遣わずに…子供扱いとか無しに、触れてもらえた』
「!…初めて?……子供扱いって…」
『…ほら、私こんな見た目だから余計に。中也さん、私の体に負担がかかるとかまだ大人になりきってないからとか言って、こういう面ですっごく私に遠慮するの』
「そりゃ初耳だ…俺がか?……いや、確かに現に罪悪感は半端なく募ってるんだが」
『そういうのいらない…子供じゃないもん。私、中也さんよりもずっとずっとお姉さんなんだから』
蝶の言葉にはそんなわけあるかよと返しかけたものの、軽くそう発言する事は出来なかった。
何かが引っかかったからだ。
「………俺はお前の事をもう、他の誰かに無闇に聞かねえようにする」
『へ…、な、なんでいきなり?』
「なんとなくだ。…なんとなく、簡単に聞いちゃいけねえようなもんな気がした。お前の口から直接聞けるようになるまで…俺がお前に怖がられなくなるまでは、お前の事を深くは詮索しねえ」
『首領に聞けば「首領にも聞かねえよ」…なんで……?』
「…お前をちゃんと安心させてやりてえからだ」
ポンポンと頭を撫でてやると、蝶の体が強ばる。
しかしそれも次第に緩まり、緊張も解れてきているようだった。
『…………じゃ、ちょっとだけ…ちょっとだけ、お話』
「…了解。ありがとな」
『ん…怖くなっても逃がさないから』
「阿呆、逃げねえよ」
