第14章 わからない人

「す、すげぇ、あの蝶にこうも簡単に飯を食わせるとは…」

「いや、食わせたら意外といけるもんだったんじゃねえのか？」

「中原さん以外にされたところでふざけんなってキレられますって」

『……っ、うるさい立原…』

「なんで俺だけ！！！」

食べさせられながら満腹感と格闘しつつ、ほとんどのものを食べきった頃。
そろそろ強がる気力も遠慮する気分でも無くなってきた。

食べるのに必死だ。

「立原にはえらく素直なんだなお前？……あと一口だぞ、口開けろ」

残りの一口というものはどうしてこんなにも食べにくいのだろうか。

嫌だと言うように首を緩く横に振って、中也さんの箸を見つめる。
最早癖だこれは。
こんな感覚に慣れちゃったのだって、正直半分はこの人のせい…

「あとこんだけだぞ？大丈夫だって」

『…ｯ』

「な…っ！！？なんで泣くここで！？どっか痛かったりするか！？」

違う、と首を振って意思を示す。
違うの、そういう事じゃないの。

私が変な事ばっかり考えちゃうのがいけないの、求めすぎちゃうのがいけないの。

「蝶…？……ってああそうか、お前いつもあれだもんな」

「な、なんだ立原！？あれって！！」

「俺に言わせるんすか！！？い、いやだってこいつ最後の一口食う時ってだいたい…………ｯｯてぇ！！！？」

思いっきり立原の脛を蹴った。
余計な事を言うんじゃない、私がわがままな子供みたいに見られちゃうでしょうが。

「蝶ちゃん！？た、立原が何か変なことを言ったのね！？どうしたの！！」

「姐さん！！俺はただ事実を幹部に伝えねえとって…じゃねえと最後まで自分で食わねえだろこいつ！！」

「事実って……！ち、蝶ちゃん？中原さんなら多分その…言えばしてくれるとは思うわよ？」

『！！！』

樋口さんまでなんということを。
流石に立原相手で無ければ手は出せまい。

…いや、私が食べきればいいだけの話なんだろうけれど。
でもどうしようもなく中也さんにいいように育てられてしまった私の身体は、その感覚が根付いて欲しがってしまってる。

顔に熱を集めて中也さんの箸を再び見つめ、なんとか食べようとするもののやはり踏み切れない。

ﾁﾗﾁﾗと箸を見たり中也さんの方を見たりと繰り返していれば、中也さんがﾋﾞｸﾘとこちらを見た。

「……俺、いつもお前に何してたんだ…？」

『い、言えない！』