第14章 わからない人
「中也がしつこい男なのは知っておるじゃろう?即死でもおかしくなかったようなものをあれ程までに耐え抜くなど人間業ではない……蝶との約束、記憶がなくても守る男じゃよ中也は」
「や、約束……?」
中也さんの方をクル、と向いた紅葉さんは、中也さんの目を真剣に見据える。
「中也………お主、絶対に死ぬな。それだけはあってはならぬ…正直今回の件は非常事態じゃが、蝶をおいて一人でいなくなるでないぞ」
「……俺が簡単に死ぬような奴だと?」
「思っておらぬが、蝶がいなければ危なかったのはどこの誰じゃ」
「言い返せねぇ…」
ドクン、ドクンと冷たかった中也さわの身体を思い出した。
あんな思いは二度とごめんだ、だからこそ私がまもらなくちゃいけない。
だけど一緒にいたい。
記憶を戻してくれなんて贅沢言わないから、せめて普通に過ごしたい。
私が一番恐ろしいのは、何よりこの人と一緒にいられなくなってしまうこと。
「蝶、なんならもう一緒にいてしまった方が、動きやすいとは思わないのか?それでいいじゃろ、こんな仕事をしていればこのような事はよく起こる…それに今回の件は、蝶のせいでは決してない」
『……熱なんて無かったら中也さんはもっと強かった。普通の人に移していいようなものじゃなかった』
「移せと言った中也が悪い上、まんまと毒なぞを盛られた中也が間抜けだっただけじゃ」
『!!毒!?本当に毒が!!?』
「………科学班が見つけ出した猛毒があっての?普通ならその時点で即死なはずが…何故か中也はこの通り、無事なのじゃよ」
紅葉さんの発言に私までもが衝撃を受けた。
猛毒?それも即死レベル…犯人を特定したところで、私の調査は終わっていた。
まさかそんな毒を盛られていたなんて……でもどうして?
なんで、中也さんは無事なの?
私みたいに毒の抗体を持ってるわけじゃああるまいし…
そこまで考えて気がついた。
可能性として考えられるものが、一つだけある。
『…………血液治療が原因の体質の変化…?』
「じゃろうな、鴎外殿からその線を話されたのは私だけじゃが、その可能性はかなり高い。何度かやってはいたんじゃろう?恐らく、その影響で中也の血液も毒に対する抗体を持ち始めたのじゃ」
『!!なんて事……っ、そんなのすぐに治さないと私…ッ!!!』
「……なんで治す必要があるんだ?」