第14章 わからない人
「髪くくってこなくて良かったのかよ?」
『今更中也さんの前でそんなことして何になるのよ、する必要ないもの』
「の割にはかなりやっぱり気にしてんじゃねえか」
『してないし。お酒入ったあとの中也さんの扱いに慣れてない人がいたら心配なだけだもの』
お前の前でも酔ったことなんかあんのかよと聞かれたものの、一度だけそんな事があったとだけ答えておいた。
それなら慣れてないようなもんだろうがと反論されるも、別に私に突っかかってくる分には構わない。
『………私に何か言ってくる分には気にしないから』
「そ、そういうもんなのか?…っと、着いたな」
入るか?と聞かれるもののそんな勇気もそんな気も無くて、首を横に振って入口の横で立ち止まった。
『いい、お酒入って大変な事にならないか見に来ただけだから…立原も呼ばれてたんでしょ?ご飯食べてないんだろうし行ってきなよ』
「お前の分だけ残しといてもら『早く行ってってば』…分かったよ、ただあんまり意固地になりすぎんなよ?あの人多分お前に断られた事気にしてねえだろうし、怒ってねえだろうから」
返事もせずに目線を下に向けていれば頭をクシャリと数回撫でて、立原は中に入っていってしまった。
「立原!蝶ちゃんは??」
「やっぱり来にくいみてえで…逆に俺が腹減ってんの見抜かれて行ってこいって言われちまったよ」
「中原さんの料理に反応しないなんて心配ね…こんなに美味しいのに」
ピク、と樋口さんの声に反応する…否、してしまう。
しょうがない、あの人達も食べてるんだ、美味しくないわけがない。
「嬉しい事言ってくれんじゃねえか樋口、手前さては俺の料理に惚れたか?」
「間違っても蝶ちゃんの前でそんな事言わないでくださいね中原さん!?」
「なんだよ、心配せずとも俺はあいつ以外の女にそういう興味は抱いてねえから大丈夫だって」
「そういう問題じゃ……いや、確かにそこはそうなんでしょうけど」
声を聞いている限り、まだ中也さんはお酒を飲んでいないようだ。
少し思うところはあるものの感情を乱さないように落ち着かせて、チラリと中を覗き込む。
普段あまり人の多い場所に集まらない銀さんまでもが中也さんの手料理に夢中な様子……美味しいもん、仕方ない。
それに中也さんとはやっぱり皆楽しそうにしてるし……いい人だもん、仕方ない。
仕方ない事。