第14章 わからない人
中也さんに何かあった時のためにと、それだけの目的で置いてあった小さめの冷蔵庫がこんな所で活躍するなんて。
氷嚢に氷が入れられて、冷たくなったそれを二つも持ってこちらに近付いてくる立原。
『いいって言ったのに』
「俺はしねえとダメだっつった」
『そんな理不じ……ッ!!?』
十分に冷たくなりきった氷嚢を両側の頬に当てられて肩が跳ねる。
声にならない声が漏れて、冷たさに慣れてきた頃に涙目になりつつもキッ、と立原を睨みつけた。
「んな睨むなって、そんくらい可愛らしい反応してくれた後にされたところで逆効果だからよ」
『からかってないで離し…ッ、な、にして…』
氷嚢を片手で固定され、突然動き出した立原に何かと思えば片腕で抱き寄せられた。
頭の上に偉そうに年上ぶって顎を乗せられてるのに、背中をトントンと摩られて反論するどころか落ち着いてくる始末。
な、何この状況…立原のくせになんでこんな事するの。
「お前、また飯食ってなかったんだって?」
『何よ…そんなのいいじゃない、死ぬわけじゃあるま「んでさっき、一人で相手のこと殺しにいこうとしたんだろ」!!』
「怒りたかったし悔しかった……が、そんなもんよりもお前の気持ちを考えるといたたまれなくなった」
『へ…っ?』
思いもしなかった立原の本音に、何も言葉が見つからなかった。
「大事な所だろうがそこは…お前があの人以外に話せねえようなもん抱えてんのは俺にだって流石に分かってる。……中原さん、厨房でお前が来んの待ってんぞ」
『…あの人に言ったところでどうこうなる問題じゃないし、これ以上巻き込まない方がいいから。もうあんな気持ちごめんだし』
「いいのかよそんな事ばっか言って知らねえふりしてて?あの人すげえ量の飯作りすぎて色んな人に食わねえかって声かけてたぞ?」
『え、何それ聞いてない』
まさかの事態に気を取られて、思わず話に食いついた。
「そりゃ今言ったからな。流石にお前には言っておかないといけねえと思って言いに来たんだが」
『な、何よ私にはとか…もう別に関係ないんだし、そんなの無視してさっさと立原もそっちに行けば良かっ「姐さんとか尾崎幹部とか、後前の秘書とか女性陣も多くてな?」……それで?』
「いや、酒が用意されてたもんだからかなり心配になってよ」
『……様子だけ見に行ってあげるわよ仕方ないから』