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第13章 愛ゆえに


理性がつなぎ止められた瞬間だった。
キスをしていると、心地よくなれると同時に、行為とは違って中也さんも私に余裕をくれるから…くれてしまうから、どうしてもそこを考えてしまう。

特別優しいのがこの瞬間。
私とキスをする時だけは、普段でも優しすぎるくらいなのに、信じられない程に丁寧で、信じられない程に優しくなる。

こんな中也さんの恋人になんてならせてもらってるのに、私がこんなだらしない女の子で…こんなにいやらしい女の子で……

考えれば考えるほど、特段自分に自信があるどころか多大なるコンプレックスの塊な自分が許せなかった。

中也さんに見られるのが、怖かった。
他の誰でもないこの人に、こんな姿をさらけ出してしまうのが怖かった。

嫌がられたらどうしようって、どう思われてるのかなって。
強すぎて身体が変になってしまうような快感と、それによって中也さんに幻滅されてしまうのではないかという思いがどうしても恐怖に切り替わる。

「……顔、見せろ」

『や…っ…嫌……ッ』

「…顔見せて、蝶」

『!!!……っ、な、んで…「見せて」……ッ?』

声色や声のトーンが変わるだけでなく、言葉遣いまでもが変えられ、それに加えて名前まで呼ばれてしまった。

こういう時に蝶って呼ぶのずるい…澪じゃなくって、蝶って呼んで見つめてくるの、ずるい。

いつもは澪、澪っていじめてくるくせに…蝶って呼ばれるのが、名前を呼ばれるのがどれだけ好きか知ってるくせに。

恐る恐る顔を上げて、中也さんの方を再び見る。

すると眉間のしわも無く、優しい目をして微笑んだ中也さんが私を見ていた。

トクン、トクンと胸が高鳴る。

「蝶が感じてる顔、すげえ好き…俺に感じさせられて蕩けてる蝶が、すげえ好き」

『な…っ、え…、と……ッ』

「俺の好きな蝶の顔見せててくれ…綺麗だからよ。可愛い声で鳴いて…俺に鳴かされて、いい顔して気持ちよくさせられちまえばいい」

『…ッす、き……っ?』

「好き……俺のことばっか考えてる蝶も、俺に気持ちよくさせられてる蝶も、乱れてめちゃくちゃになっちまってる蝶も、全部」

きゅうっと胸が締め付けられて、本能に抗わず、ゆっくりと中也さんに口付けた。

中也さんの手が撫で方を変えて、よしよしとしてくれる。

初めてした日と同じ感覚…

キスって、こんなに気持ちいいんだ……______
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